【解説】フリーランスと契約①~契約とは~|東京・壷屋法律事務所

query_builder 2021/08/24
法律コラム
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先日、政府が、フリーランスへの業務発注について契約書の作成を義務付ける事業者の対象を拡大する方針であるとの報道がありました。


フリーランスの方の間では、契約や取引をめぐるトラブルの体験談がネット上で投稿されるなど反響があり、また実際の取引では受注者という立場や業界の慣習などから、契約書を交わしたいと言えないという声もあります。


契約書の作成義務の対象となる事業が拡大される方向で検討されていることを受け、そもそも「契約」とはどういうものか、契約書を交わすことの意味合いは何かなどについて、コラムを書いてみたいと思います。


1.契約とは


契約とは、両当事者の合意によって成立し、その内容の実現が法によって保護されるものです。


「法によって保護される」とは、一方の当事者がその内容を実現しない場合には、裁判手続により、強制的に(意思に反してでも)その内容を実現できるということです。


最終的に意思に反しても強制されるということは、言い換えれば、両当事者は、一度自らの意思で契約を締結した以上は、その契約に拘束されるということになります(契約の拘束力)。


もっとも、「合意」があればそれが全て「契約」とされるわけではありません。


「契約」と評価されるためには、各当事者が、その合意へ拘束されてもよいと考えている(と評価される)ことが必要です。


例えば、友達に「明日、遊びに行こう」と言い、その友達も「いいよ!」と返事をして遊ぶ約束をしたとします。

このような遊ぶ約束は合意ではありますが、法によって強制的に実現しようとは思っていないでしょうから、「契約」とは言えません。
そのため、約束を破ったとしても、契約違反として損害賠償請求をすることはできません。信頼関係は揺らぐかもしれませんが…。


2.契約が「成立」する場合とは


契約は、その内容を示した申込みに対し相手方が承諾したときに成立します(民法522条1項)。


また、法律で特別に定められた場合を除き、書面で交わす必要はありません(民法522条2項)。


例えば、コンビニで商品を購入する場合は、売買契約(民法555条)が成立していますが、これは口頭で契約が成立しているということになります。


また、音楽サブスクリプションのサービスは、Webサイトを通じて利用しますが、Webサイトの画面表示や申込受付メールに従って申込みと承諾が行われることで契約が成立しています。【※1】

3.契約の目的と契約「書」を交わすことの意味合い

(1)契約の目的


ビジネスに限りませんが、そもそも契約は、商品やサービス、金銭など相手方から何らかの利益を得るために締結するものです。【※2】


そのため、契約書には、その利益の取得に関する事項が記載されます。

また、利益の取得という目的達成に向けてお互い行動するでしょうから、取引開始から終了までの進め方途中で発生するトラブルへの対処法なども記載されます。


これらを前もって決めておくことで後のやり取りをスムーズに行うことができ、紛争防止にも役立ちます。



(2)契約「書」を交わすことの意味合い


契約を書面で交わすことの目的やメリットは以下のものがあります。


①裁判になった際に内容を証明することが容易になる。
➁何をどうすればよいのか等内容が明確になり、紛争予防になる。
紛争が生じた場合の解決指針となる。


①に関して、契約書があるのとないのとでは、立証の難易度は雲泥の差になります。

特に企業間の取引や、金額が大きい取引、リスクの大きい取引などの際には、慎重に行動することが通常ですから、普通は契約書が交わされ、重要な内容は明記されることになります。
にもかかわらず、契約書面がない、あるいは重要事項の記載がないという場合、トラブルが裁判に持ち込まれたときには、裁判所は「通常存在すべきものが無いのだから、そのような内容の契約はしていないのではないか」と考えることが多いです。
このような裁判所の考えを覆すのは容易ではありません

このように、特に企業間のビジネスにおいては、契約書が無いことや記載が無いことが不利に働くことがあるため、契約書の作成は必須であると言えます。


一方、個人事業主やフリーランスの方などの取引では、取引規模や業務の性質などの理由で、契約書が交わされないことも多いのが実情です。
契約を書面で交わさない場合であっても、メールを利用するなど工夫次第で、上記メリットをカバーすることも可能ですが、やはり書面がある場合と比べて、①~③に不安が残ります
また、書面に残す場合は内容について意識的に決定しますが、残さない場合は業務内容などをあやふやにしがちということもあり、いざトラブルが発生したときに困ることが多いです。
ですから、上記メリットを考慮し、まずは書面化を目標としつつ、クライアントとの関係性など様々な理由から書面化はできないという場合であっても、重要な内容はメールなどを利用して記録に残しておくといった工夫が必要です。


また、もちろん、契約「書」を交わすといっても、内容が滅茶苦茶であったら意味がありません。
「書面」という形式以上に、重要な事項は明確にして記録に残すことが重要です。


以上、契約とは何か、契約書の意義などについてご紹介しました。

次回も、「契約」について取り上げていきます。

ご参考にしていただければ幸いです。


⇒コラム「【解説】フリーランスと契約➁~契約内容とチェックの視点~」はこちら


(参考文献)
潮見佳男著「ライブラリ法学基本講義 基本講義 債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得 [第3版]」(新世社)
中田裕康著「契約法」(有斐閣)


(公開日)
2021年8月24日

2021年9月2日更新


※1:なお、Webサービスにおいては、定型約款を利用した契約が通常ですが、あらかじめ定型約款を表示させたうえで申込み・同意ボタンをクリックさせるような場合には、定型約款の条項を内容とする契約が成立したものとみなされます(民法548条の2第1項2号)。


※2:「贈与」のような、一方のみが利益を受ける契約もあります。

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