「切り抜き動画」と著作権①

query_builder 2021/08/12
法律コラム


先日、ユーチューバー事務所の最大手であるUUUM株式会社がプレスリリースにおいて、「二次創作ライセンス許諾プログラム」の取り組みに関するお知らせを公表しました。

その内容は、ファン活動として行われる二次的創作物について、利用条件等を明示するもので、ファン活動とクリエイターの権利保護のバランスを図る取り組みと考えています。

近時人気を博している「切り抜き動画」については、権利者が黙認するグレーな状況でしたが、こうした状況に一石を投じる内容だと思います。


そこで、近時よく見られる「切り抜き動画」について、その法的整理とガイドラインの内容を確認してみたいと思います。


なお、本コラムは公開日時点の情報に基づいて作成しており、今後状況が変わる場合がありますので、ご注意ください。




【目次】

第1.「切り抜き動画」の法的整理

 1.「切り抜き動画」とは

 2.著作権法からの整理

 3.元動画のクリエイターによる許諾について


第1.「切り抜き動画」の法的整理

1.「切り抜き動画」とは


クリエイターがYouTubeなどの動画投稿サイトに投稿した動画や生配信を、ファンなどの第三者が短く編集して字幕などを付けた動画は、一般に「切り抜き動画」といわれます。

「切り抜き動画」は、多忙のため長尺の動画の全てを見ることはできない視聴者にとって、話題性のある部分を見ることができるとして、近時人気を博しており、ときに元動画の再生回数を大きく上回ることもあるようです。


こうした「切り抜き動画」は、ファン活動の一つとして行われることが多いようですが、動画チャンネルを収益化しているか否かはまちまちのようです。

クリエイター側としては、元動画の宣伝にもなるなどの理由から許容する方もいる一方で、黙認する方、収益化は行わないことを条件とする方など対応は様々です。


2.著作権法からの整理


こちらのコラムでも触れましたが、動画クリエイターが投稿したYouTube動画や生配信(以下「元動画」)は著作権法上の「著作物」に当たります。


そして、「切り抜き動画」を作成し、インターネットにその動画を投稿(アップロード)することは著作権法上の「複製」(21条)および「送信可能化」(23条1項)に該当します。
そのため、「切り抜き動画」の投稿は、著作物について著作権法上の利用行為をすることになるため、原則として元動画の動画クリエイターの許諾を得ることが必要です。


また、「切り抜き動画」については、主従関係や明瞭区別といった観点から、著作権法32条の「引用」も成立しないと考えられます。


したがって、動画クリエイターの許諾なく「切り抜き動画」を投稿することは著作権侵害ということになります。収益化していない場合であっても結論は変わりません。

また、切り抜きにあたり、誤解を招くような文脈でつなぎ合わせるなどした場合、「意に反する改変」として、同一性保持権の侵害となることもあります(20条)。


なお、「切り抜き動画」には、①字幕などを加えずに切り抜いただけのもの、➁映像または音声を切り抜いたものに字幕を付けたもの、③切り抜き映像に新たに創作的表現(編者のトーク、コメントやイラストなど)を追加したもの、などの幾つかの種類があります。
著作権法からみると、①②については「複製」(21条)、③について追加部分が新たな創作的表現といえる場合には「翻案」(27条)にそれぞれ該当することになります。いずれについても「元動画」の動画クリエイターの許諾が必要となるのが原則です。
なお、「翻案」の場合、「切り抜き動画」の作成者(二次創作作成者)は、その動画の新規追加部分について著作権を取得します。他方、元動画と同じ部分には二次創作作成者は著作権を取得しません。


3.元動画のクリエイターによる許諾について


「切り抜き動画」について、その諾否や条件を明確に示している動画クリエイターについては、その条件に従って投稿する必要があります。【※1】

他方、「切り抜き動画」についての立場を明らかにしていない動画クリエイターについては、そもそも「切り抜き動画」があることを知らないか、知っていてもファン活動として行われている等の理由で著作権の行使を留保しているということになります。【※2】


ガイドラインやライセンスは、こうした著作権法上グレーな状況を明確にする役割があります。

次回で詳しく触れたいと思います。




ここまでは、「切り抜き動画」の著作権法からの整理をしてみました。

次回は、元動画のクリエイターの許諾に関連する内容として、UUUM社のリリースをはじめとするライセンスやガイドラインについて確認していきます。


ご参考にしていただければ幸いです。


(参考文献) エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク[編]「エンターテインメント法務Q&A[第2版]」(民事法研究会)


(公開日)

2021年8月16日


※1:YouTube動画によっては、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)という、動画投稿者が他者に作品の使用を許可するための標準的なライセンスが記載されている場合があります。YouTube上で利用できるCCライセンスは、CC-BY(https://creativecommons.org/licenses/by/3.0/deed.ja)であり、クレジット表示を条件として、改変や収益化を許可するライセンスになっています。 このライセンス表示がある元動画については、「切り抜き動画」の投稿も可能です。


※2:著作権侵害については、刑事罰(著作権法119条1項)も定められておりますが、著作権侵害罪は親告罪(同法123条1項)です。


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