秘密保持契約はどういった点に注意すればよいか
※本記事は、2023年9月末にて公開終了した中小企業経営者向け情報サイトであるSHARES LABにて公開されていた拙稿を一部改訂して本ブログに掲載したものになります。
秘密保持契約とは、秘密としておきたい非公開情報を他者に開示するに当たり、承諾なく第三者へ開示してはならないことなどを取り決める契約です。
取引の開始時点で取り交わすことも多く、ビジネスにおける信頼関係を構築する第一歩となる契約とも言えます。
本記事では、秘密保持契約を締結する目的などをご紹介したうえで、秘密保持契約を確認する際に注意しておくべきポイントを解説します。
第1.秘密保持契約の目的
秘密保持契約は、秘密情報の開示や取り扱いについての当事者間の取り決め・約束であり、重要な情報が意図せず第三者に漏洩することや、開示した目的以外の目的で使用されることによる損害を防止することを主たる目的とします。
なお、実務上、NDA(Non-Disclosure Agreement)と言うこともあります。
第2.秘密保持契約の構成
秘密保持契約書の構成は、おおむね以下のようになっています。
相手方との関係性や、自社が開示側か、受領側かといった立場などによって、規定すべき項目や内容が異なってきます。
・目的
・秘密情報の範囲
・受領者の義務(第三者への開示の禁止、目的外利用の禁止など)
・返還、破棄
・有効期間
・損害賠償、裁判管轄
第3.注意すべき3つのポイント
秘密保持契約を締結するに当たって、押さえておくべきポイントは次の3点です。
①自社は開示側か、受領側か
②秘密情報の範囲
③秘密保持の期間
第4.ポイント①:自社は開示側か、受領側か
秘密保持契約を締結する場合、自社が主として秘密情報を開示する側(開示側)か、開示を受ける側(受領側)か、それとも双方が開示する場合(双方開示)のいずれになるかを確認することが重要です。
自社がどの立場であるかということ(+開示される秘密情報の内容や性質)によって、秘密情報の範囲や義務の内容などが異なってくるからです。
例えば、開示側であれば、秘密情報の範囲は広く、しかも受領者には厳重に管理してもらいたいと考えるでしょうし、受領側であれば、秘密情報の範囲は狭く、責任はなるべく負いたくない、と考えるでしょう。
このように立場ごとに要望が異なるため、立場に応じて秘密保持契約の内容も異なることになります。
そのため、秘密保持契約も自社の立場によって、開示者有利型、受領者有利型、双方開示型の3パターンに分類することができます。
もっとも、当事者の関係性や協議内容によっては、3パターンに分類されない内容となる場合があるので注意が必要です。また、双方開示の場合は、互いに開示し合うため、秘密漏洩を防止したいという要望と、責任はなるべく軽減したいという要望のバランス調整をいかに行うかが重要になります。
第5.ポイント②:秘密情報の範囲
秘密情報の範囲(秘密情報の定義)は、「第三者への開示禁止」や「目的外利用の禁止」という受領者の義務内容に密接に関わるものであり、秘密保持契約の中核的な内容といってよい重要な点です。
秘密情報の範囲を決定する際には、秘密保持契約を締結する「目的」は何かという点と、自社は開示側・受領側・双方開示(上記3パターン)のいずれとなるか、を確認することが重要です。
1.秘密保持契約を締結する「目的」
秘密保持契約を締結する目的を把握しておくことは、「秘密情報」の定義の内容、「目的外利用の禁止」といった受領者の義務の範囲を画するために重要です。
目的の具体例としては、「業務提携やビジネスの可能性の検討のために双方が情報を開示すること」、「共同研究開発のために技術情報を開示すること」、「業務委託先に顧客情報などの自社保有の情報を開示すること」などが考えられます。
特に「業務委託先に顧客情報などの自社保有の情報を開示する」場合のように、顧客名簿や製品の製造方法のような盗用による損害が甚大となる情報を開示する予定の場合は、秘密であることを明示したものを「秘密情報」と定義づけ、不正競争防止法の「営業秘密」の要件(秘密管理性)を満たすような内容にする必要があります。
このように、目的の把握は秘密情報の定義を検討するために重要です。
また、もし、秘密保持契約に目的を記載していない場合、一方から開示されるあらゆる情報が秘密情報とされる可能性があり、責任を負う範囲が無限定になってしまうおそれがあります。そのため、「△△の目的のために」開示された情報と限定することで、どのような情報について責任を負うのか明確にしておくことが重要となります。
2.自社は開示側・受領側・双方開示(上記3パターン)のいずれとなるか
自社が開示側なのか、受領側なのか、双方開示する場合なのかによっても、秘密情報の範囲は大きく変わってきます。
自社が主に開示する側であれば、自らの開示した情報のみを「秘密情報」とすることが考えられますし、開示の媒体を問わず広く範囲に含めることを考えることになります。
他方で、受領側や双方開示の場合、責任を負う範囲を限定するために、秘密情報の範囲をある程度限定的にすることを考えることになります。
以上のほか、情報管理のしやすさなども考慮して、秘密情報の定義を定めることになりますが、様々な要素を踏まえて判断することになりますので、ご不安がある場合には、専門家へご相談されることをお勧めいたします。
第6.ポイント③:秘密保持の期間
秘密保持契約を締結する場合、有効期間を定める場合が多いです。
もし、有効期間の定めがない場合には、永久的に秘密保持義務を負い続けることになるため、受領する側にとっては特に重要な内容となります。
有効期間は、情報の重要性の程度、陳腐化する(情報が古くなって役立たなくなる)スピードを考慮して決めます。
開示側の立場からは、役立つ期間が長ければそれだけ長くすることを基本とし、受領側の立場からは、陳腐化する期間に合わせて短くすることを基本として、開示を予定している情報の性質や内容を具体的に検討して決定することになります。
有効期間の設定が適切かどうかは、個別に検討する必要があります。
第7.おわりに
秘密保持契約はビジネスを行うに当たって信頼を構築する第一歩となるものです。
以上を参考にして頂き、ご不明点やお悩みのことがあれば、専門家に相談していただければと思います。
2023年11月20日公開
※冒頭の画像は、aymane jdidiによるPixabayからの画像を使用しています。
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