SNS上の誹謗中傷と法的責任

query_builder 2021/08/05
法律コラム
net_sns_iyagarase_man


インターネット上の誹謗中傷はたびたびネットニュースなどで取り上げられています。 SNSによって誰もが簡単に情報発信が可能な今、簡単に他人を傷つけることができる状況になっているといえます。



本コラムでは、SNSを中心になされる「誹謗中傷」が法的にどのように評価されるかを紹介し、さらに進んで、名誉毀損(名誉権侵害)などの内容を紹介します。

ご参考にしていただければと思います。



【目次】

第1.「誹謗中傷」について

第2.名誉権侵害(名誉毀損)

第3.名誉感情侵害(侮辱)

第4.プライバシー侵害

第5.「誹謗中傷」の民事上の責任


第1.「誹謗中傷」について


ひとくちに「誹謗中傷」といっても、それが法的にどのように評価されるかは実際の事案によって様々です。法的責任を負うほど酷いものと評価されることもあれば、「不快」だけれども法的責任を負うほどではないとされることもあります。


誹謗中傷の分類は色々な観点から可能と思いますが、民事上の法的措置が可能かどうかという点から考えると、「侵害される人格的利益」は何かという視点で分類ができます。
なぜなら、誹謗中傷に対して法的措置を行う際には、対象者の「どのような利益(人格的利益)が侵害されたか」を主張立証する必要があるからです。


よく問題となるものとして、次の3つが挙げられます。


①名誉権(名誉毀損) ➁名誉感情(侮辱) ③プライバシー


以下、これらを掘り下げて説明します。


第2.名誉権侵害(名誉毀損)


誹謗中傷が対象者(被害者)の名誉を害する内容である場合、その投稿者は法的責任を負う場合があります。


名誉とは「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」とされており(最大判S61.6.11民集40巻4号872頁)、対象者の社会的評価を低下させるような事実・意見の投稿があった場合に、名誉権の侵害(名誉毀損)があったとされます。

より簡単にいうと、イメージダウンさせる事実・意見の投稿が名誉権侵害になります。


ただし、その投稿に違法性が認められない場合には、投稿者は民事上の責任を負いません。これを「違法性阻却事由」といいます。
違法性阻却事由は、①公共の利害に関する事項であること、➁専ら公益目的があること、③投稿した事実の重要部分が真実であること、③´真実と証明できない場合でも、その事実が真実であると信じるについて相当の理由があること、とされています(最判S41.6.23民集20巻5号1118頁) 。


SNS上の誹謗中傷のなかには、全くの事実無根の事実を記載するものも散見されますので、そのような投稿をした者には、違法性阻却事由が認められず、民事上の責任が生じます。


第3.名誉感情侵害(侮辱)


また、誹謗中傷が対象者の名誉感情を害する内容である場合、その投稿者は法的責任を負うことがあります。


名誉感情とは人が自分自身の人格的価値について有する主観的評価(プライド)のことをいいます。
日常的に「侮辱」といわれるものは、対象者の人格に対し否定的な意見をすることですが、プライドを傷つけるものとして名誉感情侵害になります。例えば「バカ」などの悪態なども名誉感情侵害といえます。


もっとも、プライドが傷つけられるかどうかは、対象者の内心次第であり、人によって様々ですから、民事上の法的責任が認められるのは「社会通念上許される限度を超える」ものに限られるとされています(最判H22.4.13民集63巻3号758頁)。


その判断基準は、画一的なものはありませんが、「誰であっても名誉感情を害されることになるような、看過し難い、明確かつ程度の甚だしい侵害」かどうかを目安とする裁判例もあります(東京地判平28.8.30ウエストロー2016WLJPCA08308029)。具体的には投稿の経緯等を考慮して判断する必要があります。


第4.プライバシー侵害


プライバシー権は、いくつかの判例をもとに定義すると、「自己に関する情報を他人にみだりに知られない権利」と考えられます。
ここにいう「自己に関する情報」には、本当のことだけでなく、本当と受け取られるおそれのある事項であれば、虚偽も含まれると考えられています(東京地判S39.9.28下民15巻9号2317頁・「宴のあと」事件)。また、「前科」などのセンシティブな情報だけでなく(最判H6.2.8民集48巻2号149頁・ノンフィクション「逆転」事件)、個人の識別等のための情報である氏名・住所・電話番号も含まれると解されます(最判H15.9.12民集57巻8号973頁)。


以上から、「他人にみだりに知られたくない」と一般に考えられるプライベートな情報は、プライバシーとして保護されると考えてよいと思います。


ただし、プライバシー侵害による損害賠償請求・差止請求が認められる場合は、判例によれば、事実を公表されない法的利益が公表する利益に優越するか否かで判断されます(最判H15.3.14民集57巻3号229頁・長良川リンチ報道事件、最判H29.1.31民集71巻1号63頁・Google検索結果削除請求事件)。


この判断においては、以下の事情を考慮要素として検討します。
 ①公表される事実の性質・内容
 ➁事実が伝達される範囲と対象者が受ける具体的被害の程度
 ③対象者の社会的地位や影響力
 ④その事実を内容とする記事・投稿の目的や意義
 ⑤記事・投稿が掲載された際の社会的状況とその後の変化
 ⑥その事実を記載する必要性


①~③は、対象者側の事情、すなわちプライバシーの保護の程度や不利益の程度に関する事情といえます。④~⑥は、公開する側・公開の必要性に関する事情といえます。


SNSでみられる炎上者の特定やネットへの実名晒しは、公開の必要性や目的・意義から考えても、正当化されない場合があると考えられます。


第5.「誹謗中傷」の民事上の責任


対象者の人格的利益を侵害している投稿であると評価される場合、「誹謗中傷」の投稿者は、民事上、不法行為に基づく損害賠償責任(709条)を負い、金銭を支払う義務を負うことになります。


また、民事上の責任とは別に、刑法上の犯罪に該当し、刑事罰を受ける場合があります。

【参照】法律コラム:ユーチューバーが有する権利~肖像、プライバシー、名誉~


以上、SNS上の「誹謗中傷」について、法的分類・民事上の責任について説明しました。
誹謗中傷は他人を傷つけ、取り返しのつかない結果を招くこともあります。人を傷つける内容の投稿には厳しい責任が伴うということを理解し、投稿の前に一呼吸置くことが必要だと思います。

本コラムが皆様の理解の一助になれば幸いです。



(参考文献)
・松尾剛行・山田悠一郎著「最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務[第2版]」(勁草書房)
・清水陽平・神田知宏・中澤佑一共著「〔改訂版〕ケーススタディネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求-」(新日本法規出版)
・神田知宏著「インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式」(日本加除出版)


(画像利用)
いらすとや https://www.irasutoya.com/


(更新日)
 2021年8月5日

NEW

  • 【企業案件】ステマ規制とその内容・考え方のまとめ【事業者・フリーランス】

    query_builder 2024/02/07
  • 令和5年フリーランス新法について②

    query_builder 2023/12/01
  • 令和5年フリーランス新法について①

    query_builder 2023/11/29
  • 行ってよかったサウナ施設

    query_builder 2023/12/08
  • 今後のHP更新と趣味紹介

    query_builder 2023/11/21

CATEGORY

ARCHIVE